なぜ信じてしまう? デマが魅力的に見える理由
情報があふれる社会で、なぜデマに惑わされるのか
インターネットやSNSの普及により、私たちはかつてないほど多くの情報に触れるようになりました。便利な一方で、「これって本当かな?」と情報の真偽に迷ったり、不安を感じたりすることも増えたのではないでしょうか。特に、世の中を騒がせるような出来事が起こった時には、真偽不明な情報、いわゆる「デマ」や「フェイクニュース」があっという間に広がるのを目の当たりにすることがあります。
なぜ、私たちは真実ではない情報に惑わされてしまうのでしょうか? そして、どのようにすれば、情報の波にのまれず、正しい情報を見分けることができるのでしょうか。この記事では、デマがどのように生まれ、なぜ人の心に響きやすいのか、そして情報の真偽を見分けるための具体的な考え方について解説します。
デマはどのように生まれ、なぜ広がるのか?
デマは、単に誰かが嘘をついたというだけでなく、私たちの心理や情報が伝わる仕組みの中で自然発生的に生まれてしまったり、意図的に作り出されたりします。そして、一度生まれたデマは、まるでウイルスのようにあっという間に広がっていくことがあります。
デマが生まれ、広がる背景には、いくつかの要因があります。
1. 不安や不確実さにつけ込む
世の中が不安定だったり、先の見えない状況だったりすると、人は誰でも不安を感じやすいものです。「なぜこんなことが起きているんだろう?」「これからどうなるんだろう?」という疑問に対する明確な答えがない時、人は不安を解消しようと、どんな情報でもいいから拠り所を求めがちです。デマはしばしば、こうした不安に「分かりやすい説明」や「犯人探し」を提供します。たとえそれが単純化されすぎた、あるいは全く根拠のない説明であっても、不安を和らげてくれるように感じてしまい、受け入れやすくなるのです。
2. 感情に強く訴えかける
真実の情報が、客観的なデータや論理的な説明を積み重ねるのに対し、デマは人の強い感情、例えば怒り、恐れ、驚き、共感などに直接訴えかける傾向があります。「許せない!」「大変なことが起きている!」「これは感動的だ!」といった感情を揺さぶる情報は、私たちの注意を引きやすく、深く考えずに「すごい情報だ」と感じて共有したくなります。感情的な情報は、論理的な思考よりも素早く心に届き、瞬く間に拡散する力を持っています。
3. 「信じたい」という心の働き
人は、自分がすでに持っている考え方や、信じたいと思っていることを裏付ける情報を見つけると、それを正しい情報だと感じやすい傾向があります。たとえそれが曖昧な情報や、たまたま見つけた断片的な情報であっても、「やっぱりそうだったんだ!」と感じて、強く信じてしまうことがあります。これは「確証バイアス」と呼ばれる心の働きの一つで、自分が信じていることと異なる情報には、無意識のうちに目を向けなかったり、軽視したりすることにつながります。
4. 情報が伝わるうちに形が変わる
伝言ゲームのように、情報も人から人へ伝わるうちに、細部が変わったり、誇張されたり、解釈が加わったりして、元の形から歪んでいくことがあります。特に、感情的な部分やインパクトのある部分だけが強調されて伝わり、客観的な事実や注意書きが抜け落ちてしまうことも少なくありません。
真実の情報とデマは何が違うのか?
では、客観的な真実に基づいた情報とデマは、根本的に何が違うのでしょうか。
真実の情報は、客観的な証拠、科学的な根拠、論理的な整合性に基づいています。信頼できる情報源(専門家の研究、公的機関の発表、複数の独立した報道機関など)によって裏付けられており、異なる角度から検証しても矛盾が生じにくい性質を持っています。
一方、デマは、こうした根拠や裏付けに乏しいのが特徴です。
- 根拠の曖昧さ: 「~らしい」「関係者の話では」「ネットで見た」など、情報源が不明確だったり、信頼性に欠けたりします。
- 論理の飛躍: 特定の出来事や偶然を、根拠もなく結びつけ、「実は全て仕組まれていた」といった壮大なストーリーに仕立て上げることがあります。
- 検証が困難: 具体的な日時や場所、関係者などが曖昧で、事実確認をしようとしても追跡できない場合が多いです。
- 都合の良い情報のみ提示: 自分たちの主張に都合の良い情報だけを集め、反対意見や客観的なデータを無視・否定する傾向があります。
真実の情報は、検証可能であり、反証データが出てくれば修正される可能性があります。しかし、デマは証拠がなくても「信じるか信じないかはあなた次第」といった形で、信じる側に判断を委ねることが多いのです。
デマに惑わされないための情報の見分け方
情報があふれる中で、デマに惑わされず、賢く情報と向き合うためには、いくつかの心構えと具体的なチェックポイントがあります。
1. 感情が動いたら、一度立ち止まる
「これはすごい!」「ひどい!」「絶対に広めなければ!」など、情報に触れて心が強く動かされた時ほど、一度冷静になることが大切です。感情に流されている時は、情報の真偽を客観的に判断する力が鈍りがちです。「なぜ自分はこんなに強く反応するのだろう?」と自問し、すぐに拡散する前に一呼吸置いてみましょう。
2. 情報源を確認する
その情報がどこから来たのかを確認しましょう。誰が発信している情報ですか? その人は、その情報について語る専門知識や立場がある人ですか? 公式な組織や専門家、信頼できるメディアからの情報でしょうか? 情報源が不明確なもの、個人ブログやSNSの特定の投稿だけを根拠にしているものは、慎重に扱う必要があります。
3. 他の情報源と比べてみる
一つの情報源だけを鵜呑みにせず、複数の情報源から同じ情報が発信されているか確認しましょう。異なる立場や視点を持つ、信頼できる複数の情報源が同じ事実を伝えている場合、その情報の信頼性は高まります。逆に、特定の限られた場所でしか見られない情報や、他の信頼できる情報源では全く触れられていない情報は、注意が必要です。
4. 具体的な根拠はあるか?論理的に無理はないか?
「〇〇というデータがある」「△△という研究で明らかになった」など、具体的な根拠が示されているかを確認しましょう。ただし、示されているデータが本物かどうかも確認が必要です。また、話の辻褄が合っているか、不自然な点はないか、論理的に考えて無理がないかも検討しましょう。あまりにも「できすぎた話」や、全てをたった一つの原因に結びつけようとする話には注意が必要です。
5. 断定的な言葉や「緊急性」を強調する情報に注意
デマは、「これは絶対〇〇だ」「今すぐ行動しないと手遅れになる」といった断定的な強い言葉や、情報の拡散を強く促すような「緊急性」を強調する形で語られることがあります。「これを広めないと大変なことになる」などと煽る情報に出会ったら、むしろ一歩引いて冷静に内容を吟味することが大切です。
まとめ:情報社会を賢く生きるために
デマやフェイクニュースは、私たちの社会を混乱させ、人間関係に溝を作る可能性も持っています。しかし、デマが広がる背景にある人間の心理や情報の仕組みを理解し、少し立ち止まって冷静に情報を見極める意識を持つことで、惑わされるリスクを減らすことができます。
全ての情報の真偽を瞬時に判断するのは難しいかもしれません。しかし、「すぐに信じない」「情報源を確認する」「複数の情報源と比べる」という基本的な行動を心がけるだけでも、情報の波にのまれずに、確かな情報を選び取る力が養われていきます。
情報を受け取る際には、感情に流されず、客観的な根拠と論理を重視する姿勢を持つことが大切です。そして、分からない情報や確信が持てない情報は、無理に判断したり拡散したりせず、「保留」しておく勇気も必要です。
この記事が、あなたが情報社会と賢く向き合うための一助となれば幸いです。