その数字、本当ですか? 統計デマに騙されないコツ
信頼できる情報を見分けるために:数字や統計情報の落とし穴
インターネットやSNSを見ていると、「〇〇の数字が急増!」「驚異の統計データ!」といった情報に触れる機会がよくあります。数字やグラフは、客観的で説得力があるように見えます。そのため、「これは確かな情報だ」とつい信じてしまいがちです。
しかし、残念ながら、数字や統計の形をした情報の中にも、真実とは異なる、あるいは意図的に歪められたものが存在します。こうした情報は、私たちの判断を誤らせ、不安を煽ったり、特定の考え方へ誘導したりする可能性があります。
この解説記事では、なぜ数字や統計がデマに使われやすいのか、そして、そうした情報に騙されず、真実を見抜くためにはどのような点に注意すれば良いのかを分かりやすく解説します。情報に惑わされず、賢く向き合うためのヒントとして、ぜひ最後までお読みください。
なぜ数字や統計はデマに利用されやすいのか
私たちは、「数字」や「データ」に「客観的」「科学的」といったイメージを持ちやすく、そこに示された内容を信頼する傾向があります。特に、グラフや表で整理されていると、一見しただけで状況が理解できるように感じ、内容の吟味がおろそかになりがちです。
しかし、この「信頼しやすい」という性質が、数字や統計がデマに利用される大きな理由の一つです。情報を操作したい人々は、数字が持つ説得力や信頼感を悪用します。都合の良い数字だけを抜き出したり、比較対象を巧妙に選んだり、グラフの表示方法を操作したりすることで、本来とは全く異なる印象を意図的に作り出すのです。
また、多くの人にとって、統計学やデータの分析方法は専門的な知識が必要だと感じられるため、「難しいことは分からないから、示された数字をそのまま信じよう」となりやすいことも、デマが広まる背景にあります。
数字・統計デマのよくある手口と真実
数字や統計を使ったデマには、いくつかの典型的な手口があります。ここでは、その一部をご紹介し、本来どのように考えるべきかを示します。
手口1:一部の都合の良いデータだけを提示する
全体のデータの中で、自分たちの主張に有利な部分だけを抜き出して示し、不利な部分や全体像を隠す方法です。
- デマの例: 「この商品の利用者の90%が満足!」(ただし、回答者のうちわずか10%のみが「満足」と回答し、残り90%は無回答または不満足だった場合)
- 真実との違い: 全体のデータを見なければ、その数字が全体の状況を正しく反映しているかは判断できません。分母や、集計の条件が明確に示されているかを確認することが重要です。
手口2:平均値の落とし穴を利用する
「平均〇〇」という数字は分かりやすいですが、データのばらつきが大きい場合、平均値が実態を表していないことがあります。
- デマの例: 「この地域では、世帯収入の平均が1000万円です!」(ごく一部の大富豪が平均値を大きく引き上げているだけで、大多数の世帯収入はそれよりずっと低い場合)
- 真実との違い: 平均値だけでなく、中央値(データを小さい順に並べたときに真ん中に来る値)や最頻値(最も頻繁に出現する値)、あるいはデータの分布(ばらつき)を示す情報(標準偏差など)も見る必要があります。特に「ごく一部の極端な値が全体に影響を与える」ようなケースでは、平均値だけでは実態を見誤ります。
手口3:相関関係と因果関係を混同させる
二つの事柄が同時に起きている(相関関係がある)ことを示し、一方だけが原因であるかのように見せかける方法です。
- デマの例: 「アイスクリームがよく売れる時期は、水難事故も多い!だから、アイスクリームは危険だ!」(実際には、気温が高い夏に両方が増えるだけで、直接的な因果関係はない)
- 真実との違い: ある二つの事柄に関連性があるからといって、必ずしも一方がもう一方の原因であるとは限りません。別の共通の原因(この例では「夏の暑さ」)がある場合や、全くの偶然である場合もあります。安易に「〇〇だから△△だ」と決めつけず、その関係性の根拠を慎重に考える必要があります。
手口4:グラフの表示方法を操作する
グラフの縦軸や横軸の目盛りの幅を極端に変えたり、一部を省略したりすることで、変化を実際より大きく見せたり小さく見せたりする方法です。
- デマの例: わずかな変化しかないのに、縦軸の目盛りを極端に狭く取ることで、急激な変化があるかのように見せる棒グラフ。
- 真実との違い: グラフを見る際は、必ず縦軸と横軸の目盛りがどうなっているか、どこから始まっているかを確認してください。見た目の印象だけでなく、具体的な数値の変化を把握することが大切です。
数字・統計デマを見分けるためのチェックポイント
数字や統計を含む情報に触れた際、すぐに信じる前に以下の点をチェックする習慣をつけましょう。
- 情報源を確認する: その数字や統計は、誰が、どのような目的で発表したものでしょうか? 信頼できる研究機関、政府機関、公的な調査機関などが発表しているデータは、比較的信頼性が高いと考えられます。匿名のSNS投稿や、特定の主張を強く行っている団体の情報などは、特に注意が必要です。
- 元データや根拠はあるかを確認する: 示されている数字の根拠となる元のデータや調査方法について、どこかに記載されているでしょうか? 「〇〇研究によると」「△△調査の結果」などとだけ書かれていて、具体的にどの研究・調査なのか、その詳細はどこで見られるのかが不明な場合は、情報の信頼性が低い可能性があります。
- 他の情報源と比較する: 同じテーマについて、他の複数の信頼できる情報源はどのような数字や見解を示しているでしょうか? 一つの情報源の数字だけを鵜呑みにせず、多角的に情報を集め、比較検討することが大切です。
- 数字の定義や条件を確認する: その数字が具体的に何を、どのような範囲で集計した結果なのかが明確でしょうか? 例えば「平均収入」と言っても、それは個人収入なのか、世帯収入なのか、手取り額なのか額面なのかで全く意味が変わってきます。曖昧な定義の数字には注意が必要です。
- グラフは適切か確認する: グラフを見る際は、前述のように目盛りの操作がないか、比較対象が適切かなどを冷静に確認してください。見た目のインパクトだけでなく、示されている数値自体を読み取ることが重要です。
- 感情的になっていないか自問する: その数字を見て、強い不安や怒り、あるいは過度な喜びなどの感情を抱いていないでしょうか? 感情が揺さぶられているときは、情報の冷静な判断が難しくなります。一度立ち止まり、落ち着いて情報の真偽をチェックしましょう。
まとめ:数字に惑わされず、賢く情報と向き合う
数字や統計は、物事を理解し、判断するための強力なツールです。しかし、その説得力ゆえに、意図的に誤った情報や都合の良い情報だけが提示される「デマ」の形をとることがあります。
大切なのは、「数字が出ているから正しいに違いない」と無批判に信じるのではなく、常に冷静な視点を持つことです。情報源は信頼できるか、根拠は示されているか、他の情報と比べてどうか、そして示されている数字が実態を正しく反映しているか。こうした点をチェックする習慣を身につけることで、私たちは数字に隠されたデマを見抜き、真実にたどり着く力を高めることができます。
情報過多の時代だからこそ、一つ一つの情報に立ち止まり、その真偽を確かめようとする意識が、私たち自身を守り、社会全体に正しい情報が流通するために、非常に重要になると言えるでしょう。