情報の一部だけを見ていませんか?「切り取りデマ」の見分け方
SNSなどで見かける「切り取られた情報」に潜む落とし穴
インターネットやSNSを見ていると、「衝撃的な発言の一部」「思わず目を疑うような写真の断片」「短い動画」といった情報に出会うことがよくあります。これらの情報は短くまとめられているため、すぐに内容を把握できる便利さがあります。しかし、その「短さ」が、意図せず、あるいは意図的に真実を歪めてしまう原因となることがあります。
全体から一部だけを抜き取った情報が、本来の意味とは全く違う伝わり方をしたり、事実とは異なる印象を与えたりすることで、誤解やデマが生まれる現象が起きています。なぜ、情報は「切り取られる」ことでデマになることがあるのでしょうか?そして、私たちはどのようにして、そのような「切り取りデマ」を見分ければ良いのでしょうか。
この記事では、情報が「切り取られる」ことによってデマが生まれる仕組みを解説し、あなたが日々の情報に触れる中で、情報の真偽をより正確に判断するための具体的な視点をお伝えします。
なぜ情報は「切り取られる」とデマになりうるのか?その仕組み
情報が全体から一部だけを抜き取られると、なぜデマに繋がりやすくなるのでしょうか。そこにはいくつかの要因があります。
まず、インターネットやSNSでは、短い時間で多くの情報に触れることが一般的です。流れてくる情報全てをじっくりと読み込む時間がない中で、人は短くまとまった情報、特に感情を強く揺さぶるような情報に目を留めやすい傾向があります。
情報を発信する側にとって、注目を集めたり、特定の意見に誘導したりしたい場合、全体の文脈を伝えるよりも、都合の良い部分だけを強調して見せた方が効果的だと考えることがあります。例えば、長い会議の議事録から特定の誰かの発言の一部だけを取り上げて、その発言だけを批判的に取り上げたり、元々は冗談として言われた言葉を真面目な文脈で紹介したりするといったことが起こりえます。
パズルに例えてみましょう。完成したパズル全体を見れば、そこに何が描かれているのかが分かります。しかし、パズルの一つのピースだけを見ても、それが全体の中でどのような役割を果たしているのか、全体の絵がどのようなものなのかを正確に判断することはできません。情報も同じで、全体の文脈という「完成図」から切り離された「ピース」だけを見ても、その情報が本来何を意味しているのか、正確な「真実」を捉えることは難しいのです。
また、私たちは、自分が元々持っている考えや信じたいことに合う情報を無意識のうちに集めてしまいがちです(これを確証バイアスと呼びます)。このため、たとえ情報が切り取られた断片であったとしても、それが自分の考えに合致するように見えたり、自分の不安や願望を刺激したりするものであれば、「やはりそうか」と信じ込んでしまいやすくなります。
このように、情報の受け手側の時間の制約や心理的な傾向、そして情報を発信する側の意図などが組み合わさることで、意図的に、あるいは結果的に、情報の一部だけが切り取られ、それが真実であるかのように広まってしまうという現象が起こるのです。
全体像と比べてみよう:切り取られた情報が真実と違う理由
「切り取りデマ」が真実と異なるのは、全体像や本来の文脈が失われているためです。
例えば、ある人が「Aという意見には反対だが、Bという点については賛成だ」と発言したとします。この発言から「Aという意見には反対だ」という部分だけを切り取って紹介すると、その人はAという意見に対して全面的に否定的な立場であるかのような印象を与えてしまいます。しかし、実際にはBという点については賛成しており、単にAに反対しているわけではありません。全体を聞けば、その人の意見はより複雑でバランスの取れたものであることが分かります。
また、グラフの一部だけを見せることもよくある手法です。例えば、ある期間の株価のグラフで、短期間の上昇している部分だけを拡大して見せれば、その株が非常に好調であるかのように見えます。しかし、もっと長い期間のグラフを見れば、実際には長期的に見て低迷している、あるいはその直前に大きく下落しているといった全体像が分かるかもしれません。一部だけでは、全体のトレンドや状況を正確に把握することは不可能です。
このように、情報が切り取られると、時間的な流れ、前後の文脈、話し手の真意、他の関連データといった、真実を理解するために不可欠な要素が抜け落ちてしまいます。その結果、切り取られた断片だけでは客観的な判断ができず、誤った結論や印象に繋がってしまうのです。真実は、多くの場合、単一の断片ではなく、複数の要素が組み合わさった全体の中に存在していると言えます。
「切り取りデマ」を見破るための具体的なチェックポイント
情報の一部だけを見て誤った判断をしてしまわないために、私たち自身ができることがあります。ここでは、情報の真偽を見分けるための具体的な視点や心構えをいくつかご紹介します。
- 情報源を確認する: その情報がどこから来たものなのかを確認しましょう。誰が、どのような目的で発信している情報なのかを知ることは重要です。公式な発表なのか、個人の意見なのか、匿名で広まっている情報なのかによって、その情報の信頼性は大きく異なります。信頼できる情報源かどうか、過去に誤った情報を流したことがないかなども判断の材料になります。
- 元の情報を探してみる: もし可能であれば、その情報が切り取られる前の全体像を探してみましょう。例えば、SNSで見かけた短い動画であれば、元の動画がどこかにないか探してみる、ニュース記事の一部であれば、元の記事全体を読んでみる、発言の一部であれば、その発言が行われた状況や前後のやり取りを確認してみる、といったことです。全体を見れば、切り取られた部分がどのような文脈の中にあったのかが分かり、全く違う印象を持つことがあります。
- 複数の情報源と比較する: 一つの情報源からの情報だけを鵜呑みにせず、複数の異なる情報源(報道機関、専門家の見解、公的機関の発表など)の情報を比較してみましょう。同じ出来事について、複数の情報源が同じように伝えているかを確認することで、情報の信頼性を高めることができます。もし、特定の情報源だけが際立って異なる情報を提供している場合は、注意が必要です。
- 感情に流されない: 強い怒りや不安、興奮といった感情を強く刺激するような情報に触れた際は、一度立ち止まって冷静になりましょう。感情が揺さぶられているときは、情報の真偽を冷静に判断するのが難しくなります。深呼吸をするなどして落ち着き、感情ではなく事実に基づいて考えるように心がけてください。
- 「なぜ?」と問いかける: その情報がなぜその形で、今、自分に届いているのかを考えてみましょう。「なぜこの部分だけが強調されているのだろう?」「全体はどうなっているのだろう?」「この情報を広めることで、誰が得をするのだろう?」といった疑問を持つことが、情報の裏側を見抜く手がかりになります。
これらのチェックポイントを意識することで、情報の断片に惑わされず、より正確な情報を判断できるようになります。
情報社会と賢く向き合うために
インターネットやSNSが普及した現代では、私たちは膨大な量の情報に日々触れています。その中には、意図的に、あるいは無意識のうちに全体の一部だけが強調された「切り取りデマ」が紛れていることがあります。
情報の一部だけを見て判断することは、手軽である反面、真実を見誤るリスクが伴います。パズルのピースだけを見ても絵が分からないように、情報の断片だけでは全体像や正確な意味を把握することはできません。
情報の真偽を見分けるためには、情報の「全体像」を確認しようと努めること、そして「情報源の確認」「複数の情報源との比較」「感情に流されない」「なぜ?と問いかける」といった具体的な視点を持つことが大切です。これらの心がけは、情報社会と賢く向き合い、自分自身で情報を判断していくための力となります。
全ての情報を疑う必要はありませんが、特に強く印象に残る情報や、周りで急速に広まっている情報については、少し立ち止まって考えてみる習慣をつけてみましょう。そうすることで、あなたは情報の断片に惑わされることなく、より正確な情報にたどり着くことができるはずです。