デマが社会に生む分断 - なぜ不信感は広がるのか
インターネットやSNSを見ていると、特定の情報について意見が対立し、激しい議論が巻き起こっている場面に遭遇することがあります。時には、身近な人間関係にまで影響が及ぶこともあります。こうした対立や分断の背景には、しばしばデマやフェイクニュースの存在があります。
デマは単に間違った情報であるだけでなく、社会に不信感を生み出し、人々を分断させる力を持っています。この記事では、なぜデマが社会に分断を生むのか、その仕組みと、私たちがどのように情報と向き合えば良いのかについて解説します。情報社会と賢く付き合うための一助となれば幸いです。
デマはなぜ分断を生むのか？その背景と仕組み
デマが社会の分断を深めるのには、いくつかの理由があります。
まず、多くのデマは、特定の個人、団体、または考え方に対する不信感や敵意を煽るような内容を含んでいます。「彼らが何かを隠している」「自分たちの利益のために嘘をついている」といったメッセージは、すでに特定の対象に不満や疑念を抱いている人々の心に響きやすく、強い感情的な反応を引き起こします。
次に、インターネットやSNSの仕組みも影響しています。私たちは、自分が関心のある情報や、自分と似た考えを持つ人々の発信する情報に触れる機会が多くなります。これは「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」と呼ばれる現象です。この空間では、デマが繰り返し共有され、あたかもそれが真実であるかのように強化されていきます。一方、そのデマを否定する情報や、異なる意見は届きにくくなります。結果として、同じ情報を見ているはずなのに、それぞれが全く異なる「真実」を信じるようになり、互いを理解し合うことが難しくなります。
また、デマは複雑な問題を極端に単純化し、善悪を明確に分けがちです。例えば、「問題の原因はすべて〇〇のせいだ」といった単純なメッセージは、複雑な現実よりも受け入れやすく、人々に共通の「敵」を認識させます。これにより、同じデマを信じる人々は、その「敵」に対抗するために強く結束する一方、異なる考えを持つ人々との間に深い溝が生まれます。
このように、デマは感情的な側面、情報の流通経路、そして人間の心理に働きかけることで、人々の間に不信感を生み、社会的な分断を加速させてしまうのです。
事実が分断を止める力とは？
デマが感情や不信感に基づいて分断を生むのに対し、科学的・客観的な事実は、感情に流されず、論理と証拠に基づいて物事を理解することを助けます。
事実確認に基づく情報や科学的な視点は、複雑な状況を多角的に捉え、一面的な見方や単純な善悪二元論に陥ることを避けるように促します。例えば、ある問題の原因が一つではなく、様々な要因が絡み合っていることを示すデータや分析は、特定の誰かを一方的に非難する感情的な主張とは異なります。
デマはしばしば、都合の良い情報だけを切り取ったり、文脈を無視したりして作られます。これに対し、客観的な事実は、情報全体を俯瞰し、個別の出来事の背景にある構造や関係性を理解する手がかりを与えてくれます。これは、まるでパズルを解くように、断片的な情報ではなく、全体像を組み立てていく作業に似ています。
事実に基づいて情報を共有し、議論することは、感情的な対立ではなく、建設的な解決策を見つけるための土台となります。異なる意見を持つ人同士であっても、共通の事実認識があれば、対話の糸口を見つけやすくなります。
デマが不信感を広げ、溝を深める力を持つならば、事実にはその溝を埋め、互いの信頼を取り戻すための力があると言えるでしょう。
分断を生まないための情報との向き合い方
では、私たちがデマによる社会の分断を防ぐために、どのようなことに気をつければ良いのでしょうか。
最も大切なのは、感情的に強く反応する情報に触れたときこそ、一呼吸置いて冷静になることです。デマは、あなたの不安、怒り、恐怖、あるいは期待といった強い感情を刺激するように作られていることが多いです。感情に流されず、「これは本当だろうか？」「誰が、何のためにこの情報を流しているのだろうか？」と考えてみることが第一歩です。
次に、情報源を必ず確認する習慣をつけましょう。その情報は信頼できる機関やメディアからのものですか？ 個人のSNS投稿であれば、その人は情報についてどれくらい詳しいのでしょうか？ 不明な情報源からの情報は安易に信じないことが重要です。
そして、一つの情報源だけでなく、複数の信頼できる情報源をあたってみるようにしてください。特に、ある特定の立場に偏っているように見える情報や、他の情報と比べて極端な内容である場合は注意が必要です。異なる情報源を比較することで、情報の全体像や、どこが歪められているのかが見えてくることがあります。
また、安易な「シェア」や「いいね」を控えましょう。あなたが何気なく共有した情報がデマであった場合、意図せずしてそのデマの拡散に加担し、不信感や分断を広げる一因となってしまう可能性があります。特に、感情を強く揺さぶられた情報については、共有する前に事実確認を徹底することが大切です。
最後に、自分自身の「信じたい」あるいは「信じたくない」という気持ちに気づくことも重要です。人間には、自分の既存の考えや価値観に合う情報を信じやすく、合わない情報を疑いやすい傾向（確証バイアス）があります。自分がどのような情報に影響されやすいのかを知ることは、冷静な判断力を保つ上で役立ちます。
まとめ
デマは、私たちの社会に不信感を生み出し、分断を深める深刻な問題です。それは、感情を煽り、情報の流通経路を悪用し、人々の心理的な傾向に働きかけることで広がっていきます。
しかし、私たち一人ひとりが情報との向き合い方を見直すことで、デマがもたらす分断に対抗することができます。情報に感情的に反応せず、情報源を確認し、複数の視点から事実を確かめる習慣を持つこと。そして、安易に情報を拡散せず、自分自身の心の中のバイアスに気づくことが大切です。
これらの心がけは、不確かな情報に惑わされず、互いを尊重し、信頼に基づいた社会を築くための重要な一歩となります。情報社会を賢く生きるために、今日からできることから始めてみましょう。